「大学学費無償化」の嘘ー改憲案の危険性

参院選が公示されて最初の週末、NHKのニュース番組で安倍首相がインタビューを受けていました。首相が憲法に自衛隊を明記するという話をしたのを受けてアナウンサーが「9条以外で憲法改正はありますか」という質問をしたところ、首相から驚きの一言が…。「大学、高等教育の無償化」という、開いた口がふさがらなくなるような嘘八百発言が飛び出しました。これがどう嘘八百なのかについて、本日は説明させていただきたいと思います。
(録画をしていたわけでもなく、ネットでも話題になっていないので私の聞き間違いかもしれませんが、仮に私の聞き間違いだったとしても、以下に書いてあることは本当です)

まず第一に、自由民主党は改憲草案を発表していますが、ここに高等教育(大学・短大など)の無償化の話は全く登場しません。


第2に、改憲草案とは別に「改憲4項目」というものを発表していますが、ここにも無償化なんて書いていません。この改憲4項目は2017年の憲法記念日に安倍首相が、自民党の改憲草案に書いていない「自衛隊明記」と「高等教育無償化」で、憲法改正を2020年までに実現したいと宣言したことを受けて急遽作られたものです。自衛隊明記、緊急事態条項、合区解消、教育充実の4項目です。全文はこちらから読めます。

教育関係はこちら

なお、自民党改憲草案も改憲4項目も、現行憲法にはない文言として「教育は国の未来を拓くもの」という表現が入っています。これは非常に危険なことです。個人の学ぶ権利が、「国が国の都合の良いように子どもや若者を教育する権限」の下に置かれるということだからです。
無償化の嘘の話に戻ります。第3に、高等教育を無償化するために必要なのは、憲法の変更ではなく、法律の整備だからです。2012年の民主党政権時代に、日本は国際人権規約を受け入れて、高等教育を漸進的に無償化すると宣言しています。法制度というのは、上から順に憲法、国際法、法律、政令…となります。国際法の水準で(憲法に違反しないと判断して)無償化を宣言したのですから、後は法律以下の整備をすればよいのです。それをしないで憲法を変えると言うのは本末転倒でしかありませんし、憲法を変えたところで法律等が整備されなければ無償にはなりません。
第4に、今年の国会では「大学等就学支援法」という法律が成立しました。これは政府与党側やマスコミが「高等教育無償化法」と呼んでいますが、実態は全くそうではありません。元文部科学省事務次官の前川さんの解説がわかりやすいです。


要するに「住民税非課税世帯で、成績が上位にあり、実務家教員による教育を受ける学生」の授業料を無償にするという話であって、それ以外の学生は無償にはなりません。それにそもそも、住民税非課税の世帯というのは、多くの大学が学費免除の対象にしています(ちなみに私もその制度を利用して大学・大学院に行きました)。これまでは個別の大学の判断でやっていたことが法律になったことは悪いことではないかもしれませんが、実態はほとんど何も変わっていない(実はより幅広い授業料免除枠を持っていた国公立大学のみでいうと後退でもある)ことは知っておいていただきたいと思います。
実際のところ、国立大学の授業料は相変わらず値上げが続いています。


奨学金(教育ローン)の問題も非常に深刻です。


自民党の改憲案に何が書いていあるかについては、こちらの映像をぜひ。


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西垣順子<大阪市立大学 大学教育研究センター>
滋賀県蒲生郡日野町生まれ、京都で学生時代を過ごす。今は大阪で暮らしているが自宅は日野にある。いずれはそこで「(寺じゃないけど)てらこや」をやろうと模索中。老若男女、多様な背景をもつ人たちが、互いに互いのことを知っていきながら笑ったり泣いたり、時には怒ったりして、いろんなことを一緒に学びたいと思っている。著書に「本当は怖い自民党改憲草案(法律文化社)」「大学評価と青年の発達保障(晃洋書房)」(いずれも共著)など。


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