「カナリア俳壇」15

たくさんのご投句をありがとうございました。初夏らしい句が揃いました。さっそく投句順に見てゆきたいと思います。

△幼牛に指を吸はれり聖五月     剛司

【評】「吸はれり」が文法的に難ありですね。「吸はるる」とするか、「指吸はれたり」とするとよいでしょう。「幼牛」(ようぎゅう)もやや硬い感じです。「聖五月仔牛に指を吸はれけり」くらいでどうでしょう。

〇花筏崩して鮒の釣られけり     剛司

【評】この句はけっこうです。鮒釣りの体験がないと、このような着眼は得られないでしょう。

△小兵なれど大兵しのぐ五月場所     マスオ

【評】そこが相撲の痛快なところですね。しかし、これは理屈あるいは観念で作られた句という感じがして、臨場感に欠けます。理屈や観念を捨て、具体描写に徹すると、俳句の新たな境地が見えてくるはずです。

〇初見参大統領の五月場所     マスオ

【評】これは面白い句ですね。五月場所千秋楽は何だかトランプ大統領に主役を奪われた感じでした。状況が特殊ですので、「トランプ大統領訪日」など前書を付けて残すとよいと思います。

〇南風吹く改札口に汐の香     音羽

【評】「汐の香」は「うしおのか」と読むのですね。感覚的な句でけっこうと思います。ただ「南風」という季語には、南方あるいは西日本の海を感じさせるニュアンスもありますので、「汐」と少し重複する気もします。たとえば上五を「五月来る」「夏めくや」などとするのも一法でしょう。

〇父の日や夫にと選ぶ髭剃り機     音羽 

【評】面白い句です。自分がご主人に買って差し上げたのですね。「夫(つま)にと」がややもたつく感じです。「夫(おっと)に」で十分でしょう。そもそも現代人が夫(おっと)のことを夫(つま)と言うことにわたしは違和感をおぼえます。

〇滴りや線描淡き磨崖仏     徒歩

【評】以前、京都句会の皆さんと、京都の南の当尾へ吟行に出かけたときのことを思い出しました。「滴り」の確かさと、線描の「淡」さとがコントラストを成し、奥行きのある作品になっていると思います。

△吟行や筍むすび頬張つて     徒歩

【評】「筍むすび」は旨そうで結構です。ただ、このままですと吟行しながら食べているようで、ちょっとお行儀が悪いですし、俳句のなかで俳句のことを詠むのは楽屋話みたいで、あまり感心しません。上五を何か工夫できませんでしょうか。

△~〇庭の花色とりどりに更衣     蓉

【評】この句の形ですと、「色とりどりに」が「庭の花」にくっついているのか、それとも「更衣」のほうにくっついているのか、あいまいです。語順を入れ替え、「更衣色とりどりの庭の花」とするとよいと思います。

△梅の実のぽとりと落ちる静けさや     蓉 

【評】俳句は切れが命。切れがないと単なる散文の切れ端になってしまいます。この句も切れがありませんので、上五で切りましょう。「静けさや青梅一つ池に落ち」。もちろん下五は「地に落ちて」でも構いません。

△合掌家の濡れ縁に聞く牛蛙     小羊

【評】「合掌家の」と上五を字余りにすると、何かせかせかとした感じがしませんか。前書きに「白川郷」とでも記し、「濡れ縁に夕日のぬくみ牛蛙」などとすれば、字余りは避けられます。がんばって五七五の定型を守ってください。それから「聞く」は自明ですので省略できます。

◎夏桑や縁の下より鶏の声     小羊

【評】これは句の形もよく、きちんと写生のできた作品です。郷愁をさそう情景ですね。

〇洞窟(ガマ)の口隠す青葉の葉擦れかな     妙好

【評】沖縄に行かれたときの作ですね。「青葉」と「葉擦れ」の「葉」が重複しているのが気になります。そこを何とかするとさらによい句になります。一案として、「洞窟の口隠し青葉のざわめける」など。

△硯沼に墨汁満たし春惜しむ     妙好

【評】「硯沼」(けんしょう)などと難しい漢語を使うと詩心は消えてしまいます。「春惜しむ」というゆったりとした季語に見合うような言葉を選択することが大切です。俳句は言葉のハーモニーです。別の句になってしまいますが、「桐箱に細筆収め春惜しむ」など、和語で統一するとよいでしょう。

△~〇蕗を剥く妻の指先もの言はず     永河

【評】「妻は押し黙ったまま蕗を剥いているが、その指先は何かもの言いたげだ」という句意に解しました。しかし、「指先もの言はず」は何だか変ですね。「指先」で切れが入るのかもしれませんが、この句の形ですと、読者は切れなしで読んでしまいます。ここは指先の描写に徹し、たとえば「蕗を剥く妻の指先赤みさす」など、素直に作ったほうが無難に思います。

△~〇颯爽と男の日傘天を指し          永河 

【評】上五中七まではたいへん結構ですが、下五に困ってしまったようですね。「天を指し」は句の趣旨をちょっと変えてしまい、上五中七の勢いが生きてきません。「颯爽と男日傘を開きけり」くらいで十分ではないでしょうか。

△~〇東京を捨つるおとうと余花の雨     マユミ

【評】文法的には「捨つる」でよいのですが、しかし状況が現代なのに、この古語が不自然で、ちぐはぐに感じられます。過去形にし、「東京を捨てしおとうと余花の雨」なら不自然さが減じます。

△麦秋やギター三本持ち帰る     マユミ

【評】状況が分かりません。なんで3本持ち帰るのでしょう。そのへんの事情が理解できないと、季語が合っているのかどうか判断しかねます。

次は3週間後の6月25日にアップします(今月は2回の掲載となります)。皆さんのご投句をお待ちしております。河原地英武

「カナリア俳壇」への投句をお待ちしています。
アドレスはefude1005@yahoo.co.jp 投句の仕方についてはこちらをご参照ください。


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