カナリアに聞く~中村伸一さん

『あっとほ~む いきいき館』

今、日本の医療を支える「かかりつけ医」。
私は名田庄地区のかかりつけ医として務めてきました。こうして長年やってきて強く感じることは患者を総合的に診る、かかりつけ医という存在の重要性です。これは名田庄地区に限らず全国どこであっても言えることです。ところが現実はどうでしょう。たとえ軽い症状であっても、多くの人が大病院での受診を望んではいないでしょうか。
ちょっとした風邪や膝痛だったら日本のトップレベルの医者が診ても、近所の医者が診てもやることは変わりません。生命にかかわるような重大な状態でなかったら、まずは良心的なかかりつけ医にかかることです。
考えてみてください。高齢になって介護が必要になったら、大抵の人はケアマネジャーにお願いしてケアプランを立ててもらいます。それと同じように、医療にもメディカルマネジャーが必要なのです。自分勝手にいろんな病院にかかることは、ケアプランを立てずに介護を受けようとしているようなもの。それが正しい選択であるかどうかも分かりません。かかりつけ医がいれば、その人にとってどんな処置が必要なのかを総合的に判断し、マネジメントしてくれます。訪問診療もしてくれるし、必要なら専門医に紹介状も書いてくれる。専門医も正しい対処ができ、その能力を存分に発揮することができます。
医療関係者の目的は、患者さんが笑顔になり、元気になることです。かかりつけ医と専門医が上手く連携してこそ、その目的を果たすことができるのです。

名田庄診療所の診察室にて

名田庄専門のかかりつけ医である私も、気づけば55歳。ほぼ寝たきりだった父が年明け早々に他界し、故郷の三国町には80代の母が独りで暮らしています。母のこれからを思うと、私が三国町に戻ることを考えることもあります。しかし、ここを辞めることが医者である私にとって最良の判断なのだろうか、とも思います。ここには長い年月をかけて築いた私の居場所があります。「この仕事が好きだ」とはっきりと言い切れる自分がいます。医者としての私と、様々な感情を持つ一人の人間としての私。二つの立場の狭間で葛藤することもしばしば。私は、困難な状況にあっても冷静、プラス思考で乗り越えることを信念とする医者であると同時に、家族を思い、時に人の温かさに喜び、逝く人に涙するごく普通の男でもあります。

◆中村伸一(なかむら・しんいち)
1963年福井県生まれ。自治医科大学卒業。91年福井県の名田庄地区唯一の国保名田庄診療所に所長として赴任。総合医として住民約3000人の医療を担う。同地区における高い在宅死亡率を実現し、一人当たりの老人医療費、介護保険第一号保険料を県内で最も低いランクに抑えた業績を持つ。保健医療福祉総合施設『あっとほ~む いきいき館』ジェネラルマネージャーを兼任し、自治医科大学地域医療学臨床教授も務める。3月に「入門!自宅で大往生-あなたもなれる『家逝き』達人・看取り名人」(中公新書ラクレ)刊行予定。