高齢期の暮らしと住まい(45)

木造の家庭的な施設らしくない施設。家具はアンティーク(笑)というより、お古。

特養ホームとは思えない

先週は福岡で仕事があり、以前から一度見学したかった施設にお伺いしてきました。1991年、まだ介護保険もない頃、日本の介護の問題は深刻化していました。創設者はご近所の行き場のない高齢者のために、お寺のお茶室を借りてお世話をする「宅老所」をはじめます。時間は経過し、4年前に住宅地にあるのに小さな森ような場所に地主との縁ができて、地域密着型の特養ホームをつくりました。完成までの大変さは書籍になっているのですが、伺ってみて想像以上によかった(*^^*)。それはまるで「ここは特養じゃない」…

 

リビングに面したオープンキッチンでは食事作りの様子が伝わってくる

マニュアルはない

木造2階建の施設は木の香りで満ちていました。共有リビングには、「全部普通の家で使わなくなった古い家具のもらいもの」ということで、まったく統一感も介護色もありません。デコボコの椅子は、「入居者が自分に合う椅子をうまく見つけ出して落ち着いている」そうです。中には明治時代の傾いたタンスもあり、現役でちゃんと利用されています。ご家族、近隣の高齢者、ボランティアなど混在して誰が入居者なのかわからない(笑)。職員もユニフォームがないので普通の私服。介護もイベントもルール化した計画はなく、その場に合わせて取り組む。結果的にひとりひとりの職員が「考える」ことが必要です。

 

特養ホームとテラスで繋がった民家は地域のサロン。大勢の高齢者が賑やかに団らん。

どうするかでなく「なぜなのか」

たとえば、認知症高齢者は入浴拒否が多く、通常はなだめすかしてお風呂に誘導するところが多いと思いますが、ここでは「なぜ入りたくないのか?」をその人の立場にたって考えて対処していました。いきついたのが「入浴介護」ではなく「一緒に入浴する」。キッチンも外注ではなく、あえて大きなリビングに向けてオープンに職員が作っています。野菜を切る音、素材を炒める音など、生活の音が「普通の暮らし」なのです。隣接して、元地主さんが住んでいた古い民家があり、ここは地域の高齢者がサロンで使い、大勢の人で賑わっていました。「お金がない」けど「誰かがいつも何かしてくれる」そうで、介護施設によく見られる「窓は15㎝以上開かない」もなく全開。外に出て行っても、地域の人がいつも気にかけてくれているので問題ないそうです。

これをマニュアル化して他の施設でできるか?きっとできません。職員は誰もやめないし、逆にここで働きたいという応募があるそうです。

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山中由美<エイジング・デザイン研究所>
大学卒業後、商社等を経て総合コンサルティング会社のシニアマーケティング部門において介護保険施行前から有料老人ホームのマーケティング支援業務に携わる。以来、高齢者住宅業界、金融機関の年金担当部門などを中心に活動。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。2016年独立。

 


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