Weekend Review~「家守綺譚」&「冬虫夏草」

ツリガネニンジン、リュウノヒゲ、ヒヨドリジョウゴと聞いて、すぐどんな植物か思い浮かぶ現代人はどのくらいいるでしょうか。湖で遭難した亡き友・高堂の実家に住むことになった学士・綿貫がその暮らしを綴った「家守綺譚」と続編の「冬虫夏草」は、各章にそんな植物の名前が付けられています。疎水近くにあるという家はどうやら山科の設定のようです。庭のサルスベリの木に惚れられたり、池に河童が現れたり、狸に化かされたり、更には掛け軸の中から高堂がボートに乗ってやって来たり、と書くと何やら荒唐無稽な印象を与えますが、天地自然と共に生きていた百年前の京都なら、ありそうな話だと思えてくるから不思議です。そう言えば、ごく最近までかまどには神様がいたし、屋根に鐘馗さんがいる町家が今もあります。
家での暮らしを綴った「家守綺譚」に対して、続編は姿を消した飼い犬のゴローを探して鈴鹿までの山中を往く道中記。やはり河童の少年や天狗が出て来たり、「イワナの宿」(イワナを食べさせる宿ではなく、イワナの夫婦が営む宿)を目指したり。怪異譚として思い浮かぶのが泉鏡花ですが、華麗で幻想的な鏡花ワールドと違ってもっと地味で生活に根ざした世界。東近江の愛知川流域を進む途中に立ち寄る御河辺神社や阿賀神社など地域の社やその由緒は作者梨木香歩の創作かと思ったら、ちゃんと実在していて、木地師の暮らしなど郷土史や地域文化を知る上でも興味深い。小説の設定から約100年後、植物や神社のことをGoogleで調べながら読むという作業が結構楽しかったけれど、河童や天狗がいなくなってしまった今は、不思議なものに対する免疫がないから、怪しげなカルトを信じてしまう人が少なくないのかも・・・と思ったりするのでした。(モモ母)


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